Mount Hood Diabetes Challenge Networkは糖尿病の医療経済シミュレーションモデルの開発者や使用者のアイデアおよび情報の交換を目的とした国際的なネットワークであり、2年に1度Mt Hood Challengeと呼ばれる学術集会を行っています。Mount Hood Challengeは1999年に異なる糖尿病のシミュレーションモデルを作成した2つのグループがアメリカオレゴン州のMt. Hoodにあるロッジで数日間同じ条件でのシミュレーションを行い、その結果を比較したことが始まりで、2002年にはより多くのグループが加わり2回目の取り組みが行われ、その後定期的に学術集会が行われるようになりました。Mount Hood Challengeという名前は第1回の集会を行った場所の名前から取られています。

10月5日~7日に第9回目となるMount Hood Challengeがドイツ、デュッセルドルフのGerman Diabetes Centerで行われました(https://www.mthooddiabeteschallenge.com/conference)。本集会には世界各国から約80名が参加し、アカデミア、製薬企業、モデル作成を行うコンサルティング企業、各国の医療技術評価機関など幅広い所属の方が参加されていました。

会場外観

初日はプレカンファレンスワークショップとして糖尿病のシミュレーションモデルの歴史やシミュレーションモデルを作成する際に必要となるコンセプトやモデルの設定方法、パラメータの選定方法、臨床データの取り方(timeの捉え方や合併症による減少QOL値の取り方)などについて学べる講義がありました。Future directionとして、QOL値の減少をリスクファクターと捉えたシミュレーションモデルの構築やQOL値のメタアナリシス、費用推計式などの紹介がありました。2日目と3日目は集会のメインである各モデルグループが同条件で分析を行い、結果を比較するchallengeやプレナリーセッション、リサーチプレゼンテーションが行われました。Challengeでは11のモデルチームが3つの課題について取り組み、その際に明らかになった課題と解決策について参加者を含めた議論が行われました。1つ目のChallenge では最近報告されたGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の臨床効果を示したエビデンス(Cardiovascular Outcome Trials)を用いて、シミュレーション結果と臨床研究の心血管イベントの発生率を比較し、モデルの課題と解決策について議論するというものでしたが、イベントリスク式の調整方法やイベントリスク式に含めるべきバイオマーカーについて議論が行われていました。2つ目のChallengeではHbA1cや収縮期血圧、LDLコレステロール、BMIといったバイオマーカーの変動が獲得QALYに与える影響をモデル間で比較し検討するものでしたが、組み込まれているイベントリスク式が異なることにより、結果に影響を与えるバイオマーカーがモデル間で異なる点の確認や共変性に関する討議、減少QOL値を考慮すべきイベントについて議論が行われていました。3つ目のChallengeは仮想の糖尿病患者群と非糖尿病患者群(DMの罹病期間とHbA1cの値以外は両群同じ)の獲得QALY、獲得LYを各モデル内およびモデル間で比較するもので、組み込まれているイベントリスク式の違いとシミュレーション結果の関係などについて議論されていました。いずれのセッションでもモデルを作成したグループだけではなく、参加者を交えた活発な議論が行われていました。

会場の様子1
会場の様子2

また、各セッションの間にはランチやコーヒーブレイクなどの時間が取られており、参加者同士の情報交換や交流の機会も多くありました。

休憩中の様子

 糖尿病という1つの疾患領域でのモデルについて3日間みっちり議論するということはこれまでにない経験であり、集会期間中は普段出来ないような交流や新しい情報に多く触れることができ、大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。次回は2020年にシカゴで行われるとのことです。

(文責:SI/HS)